2024.02.27MAGAZINE蒼穹の王 

最後まで生き残るのはだれか-舞台「蒼穹の王」ゲネプロレポート-

 

光が丘IMA。
都営大江戸線の終着駅「光が丘」駅を降りると、都心から少し離れた閑静な住宅街が広がる。駅を囲うショッピングモールは、休日の家族連れでいっぱいだ。
会場のIMAホールに行く前に実は目的地があった。今朝、演出の吉田武寛氏が自身のSNSで紹介をしていた駅看板である。私はそれに強い興味を持っていたのだ。

あいにくの雨と急な寒暖差に気圧されながら、私は駅の改札を抜ける。IMAホールは改札を抜けて右。目的の看板は逆の左だ。それは探そうとするまでもなく眼前に大きく広がっていた。

 

広告面を覆う一面のロングポスター!今作「蒼穹の王」の出演キャスト全員が登場の広告がお出迎え。
低気圧の頭痛も吹き飛ぶこのインパクト!圧巻である。
聞けばこのポスター、なんと観客の有志による今作への応援企画として実施されたとのこと。劇場へ入る前に、早くも一つ、大人気シリーズ”王ステ”に集まる力を感じた。自然、私の期待は最高まで高まったと言っていい。お越しになる観客の皆様もぜひ立ち寄っていただきたい。

一面ポスターの、「それも観客有志による」という経緯もあいまって、足取りも軽く劇場へと向かい、客席に入った。
シリーズ恒例のキャストによる5分前アナウンスは今作も健在。つい聞き逃しがちなのだがILLUMINUSの遊び心が光る瞬間である。ちょっと早めに席について、本編への素晴らしい導入を味わってほしい。

実在の事件や史実をもとに、「悪魔」「不死者」といったファンタジーを織り交ぜ、壮大で残酷な、その中でも懸命に生き抜こうともがく者たちを描くこのシリーズ。17世紀のイギリス、疫病を封じ込めるべく封鎖された村が今作の舞台だ。

開演ののち上がる幕の向こうに、それはきっとこの村の象徴なのだろう、大きな風車が見える。まるでそれは掲げられた大きな十字架のように見えて、これから始まる物語の過酷な運命を想像させる。今作より劇場が変わり、大きくなったIMAホールの舞台を存分に生かした美術だ。田舎の農村の雰囲気をそこここと表しながら、舞台装置としての魅せ方が上手い。また一つここにも力がある。機能的に生きる舞台機構にも注目いただきたい。

イヴリン役の米原幸佑が登場すると物語が動き出す。どうやら彼がこれまでの経緯を振り返る形で物語が語られるようだ。

権力へ忠誠を誓い、宿命ともいえる友との対立するイヴリンを、米原は繊細に、ときに力強く、ときに脆く演じる。彼の持てる魅力が存分に発揮されていて、観るものを引き付ける。開幕冒頭の難しい時間帯も、彼の登場で客席の心を一気につかんだと言っていいだろう。

 

オリヴァーを演じる主演、矢部昌暉は当然ながら目覚ましい活躍である。何よりも目を奪われる。人の注意を惹く魅力を持っているのだろう、彼が登場するだけで自然と意識が向いてしまうのだ。
王子という立場でありながら、未熟な若者であるという、ある種の不完全さ、未完成さ。無鉄砲な瞬間があるかと思えば簡単に折れてしまう意気。自らの行いをあとから振り返り悔いるという、若者の特権ともいうべき苦悩。そういった過程を経て成長する一個人を、矢部は見事に溌剌と魅せている。本当に今その瞬間に生きて、成長しているのだ! と感じさせるほどの存在感と説得力だ。

 

シリーズを語るうえで外せないヴラドとヴィンツェル。演じる佐藤弘樹と鵜飼主水はさすがの一言。佐藤の高貴さと鵜飼の色気は今作でも健在で、二人の掛け合いはいつまでも観ていたいほど楽しい。永久の旅の途上で今回彼らが直面する問題は、主軸のストーリーにも大きく関わる。彼らの旅が終わる日は来るのだろうか。シリーズファンの筆者としては、彼らにはこの先もずうっと旅をし続けていてもらいたい。たとえそれが苦悶に満ちた旅だとしても。

夜が訪れる。暗闇に響く悲鳴、揺れる手持ちランプ。
光と影を操る魔術があるとするならば、この舞台では照明がそれを大きく支えていると言っていいだろう。以前、照明家の大家にお話を伺ったさいに印象的に語っていたのが「光を当てることをずっとやってると、だんだん光を当てないことに全力を注ぐようになるんだよね。闇だよ。俺は照明家なのに笑」。今作の照明の高橋文章氏も、闇の表現が素晴らしい。ホラー的要素もある今作「蒼穹の王」ではそれは大いに物語に貢献している。暗闇から訪れるのは果たして人か、それ以外の何かなのか。固唾を飲む瞬間を生み出す力を感じる。

音楽も素晴らしかった。というか、今回のテーマ曲はまさに難曲と言っていいのではないだろうか。荘厳さの中にあえて外してくるリズムとフレーズ、これを乗りこなし歌いこなすキャスト陣の歌唱力はきっと才だけで表現されているものではないだろう。相当の訓練と歌い込みがあったはずだ。決して長くないだろう稽古の中でここまでの難曲に挑む彼らの姿勢こそ、この”王ステ”が多くの人に愛されるゆえんだろう。必聴だ。

今作は閉鎖された村の中で行われる二極の対立を描く。多彩で目まぐるしい殺陣シーンは私が感じる限りシリーズ最多だ。”王ステ”が掲げてきた「最後まで生き残るのはだれか」というテーマが最も現れていると言っていいだろう。涙なしには語れない、彼らの生き様をぜひ劇場で目撃してもらいたい。

 

(取材・文章 佐野木雄太)

 

【公演名】
舞台「蒼穹の王」

【作・演出】
吉田武寛

【Story】

時は17世紀。イギリス。永遠の命に呪われたヴラド、その従者ヴィンツェル。
闇夜に生きる彼らが辿り着いた村は、突然封鎖される。疫病を食い止めるために世界から隔離したと言われるが、そうではないことを村人たちは勘づいていた。疑わしき者は罰され、正義を訴えた者は殺され、神の教えすら覆されてゆく聖域で、オリヴァーは自分の正義を求めて戦う。

最後まで生き残るのは、誰だー。

【上演会場】
IMAホール

【上演期間・タイムテーブル】
2024年2月24日(土)~2月28日(水)

【出演】
矢部昌暉(DISH//)

米原幸佑
中村龍介
二葉勇(TWiN PARADOX)
二葉要(TWiN PARADOX)
輝山立  
足立英昭
橋本全一
大谷誠
馬越琢己
服部武雄 
森田晋平
高岡裕貴

佐藤弘樹
鵜飼主水

《サーヴァント》

佐々木太一
佐松翔
佐野遥喜
長田泉里
中谷優斗
峯孝仁

<スケジュール>

2月24日(土) 13:00 /18:00
2月25日(日) 13:00/18:00
2月26日(月) 18:30
2月27日(火) 13:30/18:30
2月28日(水) 14:00

【公式Twitter】 
https://twitter.com/ou_stage
#王ステ
#蒼穹の王

【公式サイト】
https://www.kingstage5.net