ILLUMINUSは、12月26日(木)、27日(金)に −『女王ステ』『王ステ』衣装展2024 −を開催する。本イベントは、「回遊する体験型衣装展」と銘打ち、会場ではMixed Reality プラットフォーム「Auris(オーリス)」を活用。Aurisがインストールされたスマートフォンとイヤホンを使用することで、本イベント限定の“特別な案内人ボイス”とともに衣装を見て回る体験を提供する。本イベントの開催にあたり、「Auris」を提供する株式会社GATARIの代表・竹下俊一とILLUMINUS代表の小宮山薫で、昨今のコンテンツ体験について語りあった。
引き算したことによる没入感
小宮山:まず、竹下さんが音声に特化したサービスを提供するに至った経緯からお聞きしてもよいでしょうか。
竹下:もともとは視覚サービスを作っていました。ただ、「体験」と「ビジネス」という2つの観点から考えたときに、今みたいな聴覚・音声にたどり着いたんですよね。2020年頃から始めたのですが、ARグラスなどの視覚サービスは、体験制作のコストがかかるし安定的に動くデバイスもない、専門のオペレーターも必要、とそもそもの制約が大きかったんです。
理想的なARグラスが展開されるのは、個人的には2030年くらいになると考えています。となると、だいぶギャップがあるなとなりまして。すごくおもしろいけれどまだまだもの足りないというか、“良い体験”を作っていくにあたってビジネス的に考えて経済合理性が成立しないなと思いました。
では、視覚じゃない方向に切り替えていくとして、視覚の前ってなんだろうと人類史を振り返ってみたんです。そうするとメディアテクノロジーの発展って、いつも視覚より音声が先行していたんですよね。例えば、電信・電話があってテレビがあって、iPodがあってiPhoneがあって、のような。聴覚が先行してあとから視覚がついてくるのを繰り返しているなと気づきました。
それに気づいたうえで昨今のメディアテクノロジーの進化の本質を考えると、視覚で得てくることではなく、カメラがウェアラブル化されることだなと思ったんです。現実の情報を記憶してデジタル情報を空間に出すことができるような、フィジカルとデジタルをセットにして環境を作る。それが、カメラをウェアラブル化することでできる世界観です。
そうなったときに、体験設計の観点からそれを見るのか聞くのか、というフィードバックのあり方が特に本質ではないと思ったので、「じゃあとりあえず聴覚から体験を作ってみるか」と始めたのがきっかけです。
始めてみて思ったことですが、現時点でのデバイス環境であれば、視覚のARより音声のみで引き算してあげた方が逆に没入感が出るということもあり、今の形にたどり着きました。
小宮山:なるほど。音声のARの方が没入感があるというのは、実際に僕も体験してみて感じましたね。頭の中には人それぞれのイメージがあるので、音声のみで想像力の余白があるからこそ、自分の持っているイメージにつなげやすく没入しやすい、というのは僕も実感しています。
竹下:そうですね。あとは、Aurisでの体験って「身体性を伴うことができる」のも大きいと思います。進む、階段を上る、座るなど、自分の意思で身体を動かした先にフィードバックがある。視覚のARだとデバイス環境もあってなかなかそこが叶えにくいのですが、音声の持っている想像力の余白部分×自分でインタラクションを作りに行く身体性からより大きな没入感が生まれているといえます。
小宮山:−『女王ステ』『王ステ』衣装展2024 − でも、そういった点を活かして新しい体験を提供できればと考えています。
体験は負担を強いる
竹下:先日、ある中学校の国語の先生からお問い合わせをいただきました。その学校では生徒たちにタブレット端末を支給していて、プログラミングなどをはじめとした様々な教育が効率的にできているようなんですけど、2D画面とリニア(直線)的な思考の定着によって空間認識能力がないというか、(物語世界においても物理的にも)空間的・時間的な広がりが考えられない子が増えており教員としては問題を感じているとのことでした。
生徒の中では小説を読む子も少なくなってきているようです。
小宮山:その現象って、大人にも起きている気がしますね。本を読むという行為が昔より億劫になっているというか、想像力が衰えた気がします。
今って音楽もサブスクリプションサービスで気軽に聴けるので、僕が中高生のときより圧倒的に聴ける曲数は増えてるんですよね。ただ、気軽に聴けるからこそ意識をしなくなった。好きな曲でもアーティスト名や曲名を覚えていないことも増えました。
昔は、好きなアーティストが新曲を出すとなったらラジオの前でかまえて聴いたり、CDショップに走って入荷を確認しに行ったり、そこまでしてやっと1000円程度のシングルCD1枚を買ってひたすら聴いていたじゃないですか。だからこそ記憶に強く残っているし、自分で能動的に行動した故の嬉しさみたいなものもありました。
視覚が優位になりすぎると身体性は失われていきますよね。テレビやスマートフォンの普及によって、ベッドやソファから動かなくても色々なコンテンツを見ることができ、身体が固定されたともいえます。昨今はコンテンツ体験へのアクセスの仕方というか、そういった意味で身体性を伴うか伴わないか、という点がものすごく変わったなと思います。「探索要素」が少なくなりましたね。
竹下:たしかに、能動性と身体性がセットになると記憶に残りやすいのかもしれません。先ほどの教員の方も、教育においてもAurisでの体験を追加することによって、空間的・時間的な広がりを考えられるようになるのではないかと提案してくださいました。
また「探索要素」は、Aurisの体験設計においてもとても重視している点です。ユーザーに予感・予測をさせて行動させ、そこにフィードバックがあって、それでまたルールが更新されて…これを繰り返しながら自分の頭の中のルールとリアルな現実のルールを一致させ、物語世界を現実の世界として取り込んでいく。「能動性」と「探索要素」はコンテンツ体験におけるキーワードな気がしますね。
小宮山:演劇も、登場人物のストーリーに共感できたり、自分が似た体験をしていたりすると、お客さまはその物語が一気に自分事になるんですよね。
ILLUMINUSは演劇を通した物語の世界で、GATARIはAurisを通したデジタルの世界で、その「探索要素」や「体験」をつなげていけるようなコンテンツを企画設計している面では同じ方向を見ているのかもしれないですね。
取材・文:今田夏見
Aurisはスマホ1台ノーコードで現実に没入する未体験の感覚を生み出すことができるMixed Realityプラットフォームです。
スマートフォンで完結する独自の空間スキャン&自己位置推定システムと、設定次第で様々な体験を可能にする自由度の高いオーサリングツールにより、今までにない体験をいつでも誰でもどこにでも作ることができます。
現在、文化財や博物館、モデルルームや展示会など様々なロケーションへの導入が進んでいます。
「Auris」公式HP:https://gatari.co.jp/auris-intro/
株式会社GATARIは新しいエンターテインメントを切り口に、デジタルとリアルの融け合う未来のインフラづくりを目指すMixed Realityスタートアップです。「人とインターネットの融け合う世界を創る」というビジョンを掲げ、東京大学を拠点とした日本最大のVR学生団体UT-virtual(https://utvirtual.tech)創設者である代表の竹下によって2016年に設立されました。テクノロジーに深い人間理解を組み合わせ、“見え方を変える”というアプローチによって現実をより良い場所にすることを目指し続けています。
-『女王ステ』『王ステ』衣装展2024-
B1F(要予約) 「回遊する体験型衣装展」チケットについて
金額
入場チケット:2,000円
(観覧+Auris体験 +限定特典付き)
1予約あたりの滞在可能時間
約45分(予定)
販売ページ
https://t.livepocket.jp/t/49zkh
Aurisによるご案内コース
-「旅の合間に」(案内人:ヴラド・ヴィンツェル)
-「黄昏る休日」(案内人:ジェリコ・ウィリアム)
-「事情聴取はほどほどに」(案内人:アン・アトレイユ)
※1回の入場につき1コースの体験が可能です、コースは当日会場にて選びください。
Aurisについて
会場にてレンタルキット(首掛けストラップ付きiPhone+オープンエアーイヤホン)をお渡しいたしますので、案内人の声にしたがって会場内を回遊いただきます。
ご自身でiPhoneを操作しなくても、目の前の風景に合わせて案内が流れる“不思議”な体験を、案内人たちのボイスでお楽しみください。なお、体験時間は1コースあたり15~20分程度となります。