2024.11.29MAGAZINE月よ女王に嗤え

生きる、ただ懸命に。 「月よ女王に嗤う」ゲネプロレポート

「誰も救われない、誰も報われない物語」を掲げ、華美で豪華な演出と残酷無慈悲で予想をつかせないストリーで多くのファンを持つ『女王ステ』シリーズ。その第12弾となる新作「月よ女王に嗤え」のゲネプロが11月27日に行われました。
大きな期待が膨らむ開幕を控えた舞台の模様をレポートします。

不動の人気を得てなお紡がれる第12弾。その過程に想いを馳せる。

実在の史実や、虚実ないまぜの歴史的人物の逸話をモチーフに、「悪魔」「吸血鬼」「魔術」といったファンタジー要素を加味して、時代時代を必死に生きる女性たちを描くのが人気のシリーズ。第12弾ともなる今作は19世紀末のロンドン貧民街を舞台に、当時も、そして現代の我々にすら一世を風靡する『切り裂きジャック・ジャックザリッパー』を題材にした探求活劇・歌劇である。

第12弾。再演作があるため物語としては9作品目にあたる今作だが、一つのシリーズをこれほどまでに長く紡いでいくことの難しさに考えを巡らせてみる。
特に主幹となり、すべての物語と人物、結末と未来を描き続ける作・作詞・演出の吉田武寛氏の手腕たるや。彼の引き出しの中にはいったいどれほどのアイデアとインスピレーションが詰め込まれているのだろう。またどのようなスタンスとスピードで取材しているのか。ほとほと頭が下がる思いだ。

今作の登場人物には「アン」「アトレイユ」そして「リリィ」といった名前が並ぶ。すべてシリーズ別作品で主役の物語を物語った人々だ。彼女たちがいかにして不滅の存在へと「為った」かはそれぞれの作品に十分に表現されている。人間をやめ不死者として生きる道を歩む彼女たちの決断はまさに物語るに足る魅力を持っていて、筆者自身も刮目した。

 

それが、である。さらにその向こうにも物語るに足る物語を用意する吉田氏。シリーズの歴史と回数を重ねることによる、ある種の「便利さ」におもねることなく、さらなる人物の物語を引き出す、紡ぐ、描き出す。過酷な道を選んだ彼女たちが心休まる時を迎えることは、きっと無いのだろう。永遠を生きることを覚悟した彼女たちの今作での活躍やいかに。

舞台は「舞台」。

さて、レビューに移ろう。
物語の冒頭は劇中劇で始まる。ロンドンの劇場で上演される「月夜の女王」という作品、その一幕が描かれる。観劇時の注意や舞台の見方をこのような手法で描く演出が、楽しい。導入の難しさを軽やかに飛び越えて、衆目は劇へと誘われる。こういうところが、ニクい。ニクすぎる。すべては吉田氏の手の平の上だ。目論見通り転がされて嬉しさすら感じながら、私は劇へと、文字通り注目した。

往々にして、劇中劇というのは面白いものである。当たり前だが劇をつくる彼ら彼女らが劇や舞台、劇場を描くのだ。スタンスが透いて見えてくる。それら媒体に対して、作り手の妙に高い解像度と向き合い方が見えてくるのが、シェイクスピアの時代から続く(「ハムレット」とか。読むと御大が演劇をどう見据えてたか、400年たった我々にもある程度見えてくる。)劇中劇の楽しみ方。エンタメに振り切ったふりをして演劇のマジックをいかんなく放り込んでくる吉田氏。

「知性」のアトレイユと、「無邪気の狂気」アン。

キャストにも目を向けてみよう。
「アトレイユ」を演じる込山榛香。シリーズ別作「星よ女王に堕つ」でも同役を演じ、筆者も拝見した。その際のレビューにも「知性」という言葉を使ったような気がするが、今作でもその魅力は健在だ。そして何よりとっても前向き・ポジティブである。残酷無比がフィロソフィーのシリーズにあって、鬱々としがちな板の上を明るく前向きに照らしてくれる。作劇の都合に寄らない、込山だからこそのハッとする瞬間がままあって、天性を感じる。ハマり役だろう。軽快なミザンスで舞台を跳ねる。ウサギのような可愛らしさでストーリーを牽引。

 

そして星守紗凪だ。こちらもアン役を「楽園の女王」「女王輪舞」「女王虐殺」と多数のシリーズ別作で演じている。筆者はシリーズ外でも数作、星守を拝見しているが彼女の魅力は「無邪気さ」と言えるのではないだろうか。屈託がなくいつも新鮮で、観劇するたびにそれは輝きを増しているように思う。輝き、ではないか、なにか特別な魅力の光が、強さを増している、鋭くなっている。といったほうが正しいかもしれない。今作ではその無邪気さに、自覚的な邪悪さ、邪気を纏わせるという妙技を披露。子供が意味もなく蟻の行列を踏みつける、その行為を自覚的主体的にやっている、という、ある種超然とした、人外の認識。こちらもストーリーラインに任せたキャラ造詣にとどまらず、星守紗凪の魅力と技術によって生み出されたもの。踊るような大立ち回りの殺陣も数多く、見事だ。

対角線で待ち構える「理性」のリリィ。

上記の2人が今作の光として(存在は闇なのに)物語を照らすとするならば「リリィ」はその二人の対極にいる影と言えるかもしれない。演じるは大滝紗緒里。「リリィ」という存在はシリーズ第1作「赤の女王」の登場人物で、そののちのシリーズ別作でも数多く登場している最古参のキャラクターだ。永遠を生きる宿命を受け入れる彼女の冷たい覚悟の強さを「理性・理知」で描く大滝の表現が素晴らしい。ひどく冷たい人物でありながら実は一番優しいのだ。この優しさをキャラクターに灯しているのは大滝紗緒里の本来性によるのではないか。残酷な世界でも救いはあるのかもしれない、と思わせてくれる存在感が頼もしかった。

シリーズを貫通するキャラクターたちの饗宴

上記3人をはじめとして、今作は別作で登場したキャラクターが数多く顔を見せる。それぞれの出自やバックボーン、不死者に為った経緯が、一人ひとりに強く深く宿っている。それらの魅力的な人物たちが一堂に集い、饗宴に結ぶロンドンの夜。女王ステのこれまでとこれからを繋ぎ、紡ぎ出す吉田武寛の世界に、あなたもぜひ浸ってほしい。

 

 

(取材・文章 佐野木雄太)

舞台「月よ女王に嗤え」公演概要

【公演名】
舞台「月よ女王に嗤え」

【作・作詞・演出】
吉田武寛

【音楽】
hoto-D

【日程】
2024年11月28日(木)~12月1日(日)

【上演スケジュール】
11月28日(木)14:00/19:00
11月29日(金)14:00/19:00
11月30日(土)13:00/18:00
12月 1日(日)12:30/16:30

【会場】
六行会ホール
〒140-0001 東京都品川区北品川2丁目32−3

【About】
「誰も救われない、誰も報われない物語」をテーマに、血塗られた実在の悲劇をモチーフにし、女優のみで描く「女王ステ」シリーズ。
第12弾、9作品目となる本作はアンとアトレイユを主人公にした新作「月よ女王に嗤え」を上演いたします。

【Story】
-教えてやる、真のジャック・ザ・リッパーを-

19世紀末、ロンドン東部貧民街。
ロンドン中の人々を恐怖に陥れた連続殺人鬼<ジャック・ザ・リッパー〜切り裂きジャック〜>の犯行は落ち着いたかのように思われたが、犯行はまだ終わってはいなかった。
残忍な犯行と止まらない殺人予告。ロンドンは再び恐怖に包まれたー。
そんな時、犯人調査へと巻き込まれたのは、貧困街ホワイトチャペルの片隅で、歳をとらないと噂される<アトレイユ>。
そして、調査の過程で浮上したのは、血のような赤いドレスを身に纏った<アン>だった。
ふたりを見下すように、今夜も霧の向こうで月は怪しく嗤う。

【出演】
星守紗凪
込山榛香(AKB48)

佐武宇綺
林鼓子
中村裕香里
宮崎理奈
千歳ゆう
本条万里子
隈本茉莉奈(虹のコンキスタドール)
日和ゆず
田中海咲
久家心
有沢澪風
中野あいみ
加藤瞳

大滝紗緒里

〈サーヴァント〉
石田みう
稲田有梨
後藤楓
藤田こころ
山口輝鈴
結城まお

【Ticket】
<S 席>A列~D列
9,500円

<A 席>E列~K列
7,300円

<車いす席>
7,300円
A 席内 7 列目車いす専用席
※11月14日(木)23:59まで販売

<特典チケット>
1,800円
※特典チケットは一般販売(9月22日(日)10:00)より販売開始されます。
※特典チケットは、お座席のチケットと別途【特典チケット】の購入が必要になります。
※特典はメインキャストポストカードセット(16種)/クリアファイル。

【公式X(Twitter)】
https://twitter.com/AKANOJOHOU
#女王ステ
#月よ女王

【公式HP】
https://www.queen-of-murder.com/

【お問い合わせ】
info@illuminus-creative.net
(ILLUMINUS運営事務局)

【企画・製作】
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